結論

世田谷区の人口密度は多くの地区で増加した。一方で、人口密度が低下した地区では行政による土地利用の変化が見られる。

調査の目的

  • 世田谷区の人口密度と人口分布の変化を調べ、世田谷区の人口増加がどの地区で起きたのかを明らかにする。
  • 人口減少が起きた地区とその背景を明らかにする。

前提

世田谷区の人口は20年間で約12万人増加した。

 2000年の世田谷区の人口は約80.0万人、2020年は約92.0万人である。

調査の内容~人口密度の比較~

2000年は、区の中央東部に人口が集中。

 全体的に、区の中央部の東側に人口密度が高い地区が多く、都心に近い地域ほど人口密度が高い。

 特に、下馬や上馬、三軒茶屋地区の人口密度高い。これらの地区は東急田園都市線の沿線地域である。

 図では、色が濃いほど人口密度が高いことを表しており、丁目が記されている地区は区の中でも特に人口密度が高い地域である。

2020年は、区の中央部や南部にも人口が集中。人口密集地域も大幅に増える。

 区の東部だけでなく、中央部や北部の人口密度が高くなった。鉄道路線の沿線地区ほど人口密度が高いと考えられる。

 特に、小田急沿線の船橋や千歳台、砧地区や、京王線沿線の南烏山、上北沢地区の人口密度が高くなった。

 また、東急田園都市線沿いの地区(下馬、上馬、三軒茶屋、太子堂地区)は、より一層人口密度が高くなったことが分かる。

考察~すべての地区で人口密度は上昇したのか~

1割の地区で人口密度が下がった。

 ※濃い青の地区は、(2020年の人口密度)/(2000年の人口密度)の数値が0.8を下回った地区を指す。  

 青く示した地域(濃い青・薄い青)は、2000年から2020年にかけて人口密度が低くなった地区である。

 濃い青で塗られた8つの地区は、特に人口密度の低下が著しい地区である。

 人口密度が低下した地区は26地区あり、全277地区のうち約1割を占めている。(駒沢公園地区と砧公園地区を除く)

公営住宅や官舎が立地している(していた)ケースが多い。

 人口密度が低下が著しい10地区を順に並べ、低下したと考えられる要因を記す。

地区名人口密度の比率低下したと考えられる要因
大蔵三丁目0.383一部の都営住宅が建て替え工事中。(2016年より建て替え)
上北沢二丁目0.458地区の大部分が公園又は医療施設。
喜多見二丁目0.733都営住宅と都水道局が立地。2020年の対象データにて、地区の面積(AREA)が広がった。
祖師谷二丁目0.758一部の都営住宅が建て替え工事中(2021年より建て替え)
野毛一丁目0.788国家公務員宿舎を廃止し、公園に活用。
上用賀四丁目0.795国家公務員宿舎を廃止し、公園に活用。
八幡山三丁目0.816都営住宅の一部を廃止し、広域避難場所等に活用。
喜多見六丁目0.844一部地域が「東京外かく環状道路」の用地となる。
下馬二丁目0.845国家公務員宿舎を廃止し、社会福祉施設等に活用。
池尻一丁目0.869陸上自衛隊三宿駐屯地内の用地の用途変更。

 人口密度の比率=(2020年の人口密度)/(2000年の人口密度)。

具体事例~野毛一丁目の土地利用の変化~

 野毛一丁目は表にある通り、4番目に人口密度が低下した地区である。ここでは、航空写真や世田谷区の地区計画を使って、野毛一丁目の土地利用の変化を調べる。

野毛一丁目の概要

上の図にもあるように、野毛一丁目は世田谷区の南部に位置している。

地区内に第三京浜道路の玉川インターチェンジがあり、交通の要衝となっている。

また、多摩川に面し、等々力渓谷公園や玉川野毛町公園を有するなど緑豊かな地域でもある。

1990年の航空写真と最新の航空写真の比較

 赤い線で囲まれた部分が、野毛一丁目の区域である。

 緑の部分に注目すると、1990年では規則的に建物が並んでいたが、最新の航空写真では建物が消滅していることが分かる。

国家公務員宿舎の跡地を地区公園として整備。

 世田谷区は、「玉川野毛町公園拡張事業基本計画」において、玉川野毛町公園に隣接する国土交通省等々力宿舎跡地の一部土地を、主に徒歩圏内に居住する者の利用を目的とした地区公園として拡張整備することを令和3年5月に発表している。

令和7年度の供用開始に向け、公園拡張区域となる宿舎跡地の工事が令和5年度より順次進められている。

行政による土地利用の変化が人口密度に影響。

 野毛一丁目の人口密度が低下した大きな要因の1つに、国家公務員宿舎から地区公園への土地利用の変化が挙げられる。

 また、人口密度が低下した他の地区においても、都営住宅や官舎などの公的施設の縮小や廃止、建て替えは人口密度が低下した主要因の1つと言えるかもしれない。

付録

人口密度が高い地域の意味

 人口密度は、「ある区域内の人口」を「区域面積」で除した数値である。

 本分析のQGISにおいて、各地区の人口密度を自然分類で6階級に分け、一番上の階級を最も人口密度が高い地域として、地区名ラベルを付した。

QGISの紹介

 QGISはリンク先は以下の通りです。無料でダウンロードできます。
 https://qgis.org/ja/site/

 QGISの使い方の入門書は河端瑞貴先生の「経財・政策分析のためのGIS入門」がおすすめです。事例に沿って、かなり詳しく使い方が載っています。

今後への期待

  • 鉄道路線や道路の地図情報を取得し、QGISを用いて人口密度の地図に反映させる。
  • 財務省の国有財産政策を調べる。特に、「国家公務員宿舎の削減」政策について調査、検討を行う。
  • 国土交通省の住宅政策(住宅の公的供給・JKK東京やURの違いなど)を調べる。
  • 東京都の他の地区やそれ以外の地区についても同様の調査、検討を行う。

使用したデータ

使用したデータへのアクセス方法の詳細を以下に記します。

「政府統計の総合窓口(e-Stat)-地図-境界データダウンロード-小地域-国勢調査-〇〇年-小地域(町丁・字等)(JGD2000)-世界測地系平面直角座標系・Shapefile-13 東京都-13112 世田谷区」

参考文献

Rコード

  • マトリックスデータの加工(列名変更:rename、列の追加:mutate、列の削除/並び替え:c())
  • shpファイルへの書き出し(st_write関数で、layer_optionsを”ENCODING=UTF-8”に設定)
install.packages("sf")
install.packages("car")
install.packages("tidyverse")

library(sf)
library(car)
library(tidyverse)
library(dplyr)

setagaya_2020 <- st_read(dsn = "setagaya_2020.shp")
setagaya_2000 <- st_read(dsn = "setagaya_2000.shp")

#各年度のデータの列名変更
setagaya_2020 <- rename(.data = setagaya_2020, popdns_2020=popdns) #列名変更
setagaya_2000 <- rename(.data = setagaya_2000, popdns_2000=popdns) #列名変更

#世田谷データの加工
setagaya <- mutate(.data = setagaya_2020,
                   popdns_2000 = setagaya_2000$popdns_2000,
                   S_NAME_2000 = setagaya_2000$S_NAME)#列の追加

setagaya <- setagaya[,c(-1:-4,-8:-29)] #列の削除

setagaya <- setagaya[,c(1,2,3,7,4,6,5)] #列の並び替え

#ratio項の追加
setagaya_ratio <- mutate(.data = setagaya, ratio = setagaya$popdns_2020/setagaya$popdns_2000)

#setagaya_ratioが1を下回っている数を数える
sum(setagaya_ratio$ratio < 1)
#setagaya_ratioが1を下回っている行(28個)のみを抽出
setagaya_low <- setagaya_ratio[setagaya_ratio$ratio < 1,]

#shpファイルへの書き出し
setagaya_ratio_shp <- mutate(.data=setagaya_2020,ratio=setagaya_ratio$ratio)
st_write(setagaya_ratio_shp,"setagaya_ratio.shp", layer_options = "ENCODING=UTF-8")